『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 秒単位の狂気を「観やすく」する、視線誘導とセンターフレームの魔法

映画レビュー

マッドマックス 怒りのデス・ロード

★★★★★★★★★★4.2
  • 監督:ジョージ・ミラー
  • 公開年:2015年
  • 製作国:アメリカ
  • 上映時間:120分

資源が枯渇し、法も秩序も崩壊した世界。愛する者を奪われ、荒野をさまようマックスは、砂漠を支配する凶悪なイモータン・ジョーの軍団に捕らえられる。そこへジョー配下の女戦士フュリオサらが現れ、マックスはジョーへの反乱を計画する彼らと力をあわせ、自由への逃走を開始する。

見どころ

全編を通して鳴り響く爆音、火を噴くギター、そして砂漠を爆走する改造車の群れ。 ジョージ・ミラー監督が放った『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、映画館を「体験型のアトラクション」に変えてしまった歴史的傑作だ。

しかし、一人の映像制作者としてこの映画を観た時、その圧倒的な熱量以上に「ある異常な事実」に気づいて戦慄することになる。 それは、これほどまでに画面内がカオスで、かつ秒単位でカットが切り替わる激しいアクション映画であるにもかかわらず、「今、誰が何をしているか」が全く分からなくならないという点だ。

今回は、狂気のアクションを支える「緻密すぎる映像編集と視線誘導」の視点から、本作の凄まじさを解剖していきたい。

究極の引き算。「センターフレーム」の徹底

本作が観やすい最大の理由は、画面の構図にある。 通常、美しい映像を撮る際のセオリーとして、被写体を画面の端に寄せる「三分割法」などがよく使われる。しかし、本作のアクションシーンではそのセオリーをかなぐり捨て、「最も見せたい情報を、常に画面の『ど真ん中』に配置する」というルールが徹底されている。

銃を構えるマックス、ハンドルを握るフュリオサ、爆発する敵の車。これらがすべて画面の中央に配置されているため、激しくカットが切り替わっても、観客は「眼球を動かさずに」次の情報を一瞬で受け取ることができるのだ。 日々の映像編集において、視聴者の視線があちこちに散らからないようにレイアウトを調整する苦労を知っている身からすると、全編を通してこの「センターフレーム」を貫き通した執念にはただただ圧倒される。

コマ落としが狂気を加速させる「フレームレート」の操作

アクションの「速度感」を演出する手法も、本作は狂っている。 通常、映画は1秒間に24コマで撮影・再生されるが、本作ではあえてコマ数を間引く「アンダークランク」や、再生速度を不規則に変動させる処理が多用されている。

これによって、キャラクターの動きがどこかカクカクとした、コマ送りのような不自然さを帯びる。これが、ただ車が速く走っているだけでは出せない「後戻りできない狂気」や「焦燥感」を視覚的に増幅させている。編集ソフトのタイムライン上で、クリップの速度をただ早送りするのではなく、あえてフレームを抜いていくという泥臭い作業の積み重ねが、あの異様なテンポ感を生み出しているのだ。

ティール&オレンジが焼き付ける「終末の温度」

そして、本作の色合いを決定づけているのが、極端なまでの「ティール&オレンジ」のカラーグレーディングだ。

灼熱の砂漠と炎の「オレンジ」に対して、空の深さや夜のシーンの「ティール」を強烈に対比させることで、画面全体のコントラストを引き上げている。特に夜のシーンは、実際には昼間に撮影された映像の色温度を極端に下げて夜に見せる「Day for Night(擬似夜景)」という古典的な手法が使われているが、これがかえって終末世界らしい「不気味な美しさ」を際立たせている。

結び

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、決して勢いだけで作られた映画ではない。 異常な世界観と狂気のアクションを、観客の脳に直接、かつストレスなく叩き込むために、映像編集のあらゆる技術が「極めて理性的」に計算され尽くしているのだ。

次に本作を観る時は、ぜひ「自分の目線が画面のどこにあるか」を意識してみてほしい。きっと、ジョージ・ミラー監督の仕掛けた完璧なレールの上から、一歩も逃れられないことに気づくはずだ。

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