『プライベート・ライアン』 1人のために8人が命を懸ける矛盾。「しっかり生きろ」に込められたメッセージ

プライベート・ライアン 映画レビュー
プライベート・ライアン

プライベート・ライアン

★★★★★★★★★★4.8
  • 監督:スティーブン・スピルバーグ
  • 公開年:1998年
  • 製作国:アメリカ
  • 上映時間:170分

1944年。連合軍はフランスのノルマンディー海岸に上陸するが、多くの兵士たちが命を落とした。激戦を生き延びたミラー大尉は、最前線で行方不明になった落下傘兵ジェームズ・ライアン二等兵の救出を命じられる。ライアン家は4人の息子のうち3人が相次いで戦死しており、軍上層部は末っ子のジェームズだけでも故郷の母親の元へ帰還させようと考えたのだ。ミラー大尉と彼が選んだ7人の兵士たちは、1人を救うために8人の命が危険にさらされることに疑問を抱きながらも戦場へと向かうが……。

見どころ

もし、あなたの命を救うために、見ず知らずの8人の若者が命を落としたとしたら。 あなたはその後の人生を、胸を張って生きることができるだろうか?

1998年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』は、戦争の悲惨さと命の尊さを、これ以上ないほどの圧倒的なリアリティで描き出した映画史に残る大傑作だ。 ヒロイックなBGMと共に敵をバタバタと倒すような、それまでの「娯楽としての戦争映画」の常識を完全に破壊した本作。公開から四半世紀が経った今でも、私たちがこの映画に打ちのめされ、そして深く感動してしまう理由に迫りたい。

冒頭「オマハ・ビーチの20分間」

本作を語る上で、映画の冒頭、ノルマンディー上陸作戦(オマハ・ビーチ)を描いた約20分間の凄惨な戦闘シーンは絶対に避けて通れない。

画面が揺れ、飛び交う銃弾の音が耳をつんざき、隣にいたはずの仲間が次の瞬間には物言わぬ屍に変わっていく。そこには「かっこいい戦争」など1ミリも存在しない。あるのはただ、泥と血と、兵士たちの恐怖に満ちた叫び声だけだ。 あえて手持ちカメラを多用し、レンズに水しぶきや血のりが飛び散るのをそのまま映し出したこのシーンは、観客を安全な映画館の座席から、最前線の地獄へと強制的に引きずり込む。息をするのも忘れるほどのこの疑似体験は、すべてのアクション映画、戦争映画の基準をこの日を境に変えてしまった。

「1人を救うために8人が死ぬ」という究極の矛盾

凄惨な上陸作戦を生き延びたミラー大尉(トム・ハンクス)と7人の部下たちに下されたのは、あまりにも理不尽な命令だった。 「兄弟3人を戦争で亡くしたライアン二等兵を、母親のために本国へ生還させよ」。つまり、たった1人の新兵を探し出して連れ帰るために、歴戦の勇士8人が命の危険に晒されるのだ。

「あいつの命は、俺たち8人の命より重いのか?」。 部下たちが抱く当然の怒りと葛藤は、そのまま観客の疑問でもある。極限状態の中で少しずつギスギスしていく分隊のリアルな空気感。そして、スナイパーのジャクソン、衛生兵のウェイド、実戦経験のないアパムなど、個性的で人間臭い部下たちが次々と過酷な運命に巻き込まれていく姿に、私たちは胸を締め付けられずにはいられない。

ミラー大尉の震える手と、ラストメッセージ

そんな部下たちを束ねるミラー大尉もまた、無敵のヒーローではない。 水筒を持つ手が小刻みに震え、誰もいないところでこっそりと泣き崩れる彼は、故郷に帰ればただの「平凡な学校の先生」なのだ。誰よりも故郷の妻を愛し、生きて帰りたいと願っている彼が、部下を奮い立たせるために必死に「理想の上司」を演じている姿がたまらなく切ない。

そして迎える、瓦礫の町での最終決戦。 すべての任務を終え、最期の時を迎えようとするミラー大尉が、救い出したライアンの耳元で震える声で絞り出した「Earn this.(しっかり生きろ / 無駄にするな)」という言葉。 このたった一言に、犠牲になった仲間たちの無念、生き残ってしまった者の十字架、そして「平和な未来を託す」という途方もなく重い願いのすべてが込められている。ラストの墓地のシーンで、年老いたライアンが涙ながらに問いかける言葉に、泣かずにいられる人はいないだろう。

結び

『プライベート・ライアン』は、決して気軽に「面白かった!」と言えるような作品ではない。観終わった後は、精神的な疲労感でしばらく立ち上がれなくなるかもしれない。

しかし、自分の命が「誰かの犠牲の上に成り立っている平和」の中にあることを、これほどまでに強烈に教えてくれる映画は他にない。 「自分は、胸を張れるような人生を送れているだろうか?」。映画からのその問いかけは、あなたの心に一生消えない深い余韻を残すはずだ。

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